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東京地方裁判所 昭和23年(行)55号 判決

原告

遠藤慶治郞

被告

東京都知事

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告訴訟代理人は被告が訴外喜多村守一に対して爲した昭和二十二年十月十一日附第二五四五号建築許可は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求める。

事実

「原告は昭和二十一年十月二十二日訴外伊〓定宗から東京都中央区木挽町一丁目五番地の一所在地二十四坪一合九勺を買受け、同二十二年二月二十一日その所有権移転登記をした。ところで右宅地の内六坪九合三勺はもと訴外岡安喜藤次が右伊〓から賃借して同所に建物一棟を建設所有し、訴外喜多村守一が同訴外人から同建物を賃借していたのであるが、昭和二十年三月二十日右建物が強制疎開によつて除却されると同時に、訴外岡安の借地権並びに訴外喜多村の建物賃借権は消滅した。その後同二十一年十一月七日頃訴外喜多村は原告に対して前記六坪九合三勺の土地の賃借を申出たが、原告はこれを拒絶したので、同訴外人は右土地について何等の使用権をも有しないものである。ところが、同訴外人は原告がまだ所有権移転登記を為さぬのを奇貨として同月十八日東京地方裁判所に対し前記訴外伊〓定宗を相手方として賃借権設定並びに條件確定の申立を為し同二十二年六月十九日同裁判所から訴外喜多村が右伊〓に対し右六坪九合三勺の土地について賃料一ケ月一坪金二円、期間昭和二十一年十二月五日から十年、建物所有の目的の借地権を有することを確定する旨の決定を得、該決定添付の上被告に対して右地上の建築許可の申請をしたところ、被告はこれに対して同二十二年十月十七日請求の趣旨記載の許可を為した。然るに、訴外喜多村が右土地について使用権を有しないことは前示の通りであるから、被告が同訴外人の右土地に関する使用権の有無について何等実質的審査を為すことなく同訴外人に与へた、右許可は原告の右土地の所有権を侵害し、惹いては日本国憲法第二十九條第一項の規定にも違反するものであつて無効である。依つて、原告は被告に対しその確認を求める為め本訴に及んだ。」と述べ、証拠として甲第一号証、同第二号証の一、二を提出した。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「原告の主張する事実中、昭和二十年三月二十日訴外喜多村守一が訴外岡安喜藤次から賃借していた建物が強制疎開によつて除却されたこと、訴外喜多村が同二十二年六月十九日東京地方裁判所から原告主張の如き決定を得たこと、及び同訴外人が該決定添付の上被告に対して原告主張の地上建築許可の申請をしたところ被告はこれに対して同年十月十七日原告主張の許可を為したことは認めるが、その他は知らない。元来建築許可は、建築法令に基いて当該敷地に建築することが建築行政上支障がないと認められる場合にする行政処分であるから、建築申請の土地が現実に存在し、且その敷地への建築が関係行政法規に牴触しなければ建築許可は有効に成立するのであつて、当該敷地に対する使用権の有無が直ちに建築許可の有効、無効を左右すべきものではない。仮りに当該敷地に対する使用権の不存在を以て建築許可の無効を主張し得るとしても、訴外喜多村の土地使用権の不存在が別途訴訟等によつて確定して居らぬ本件にあつては、建築許可の無効を主張することは認め難い」と述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

案ずるに、建築許可は建築法令に基いて当該敷地に建築を爲すことが建築行政上支障がないと認められる場合に爲される行政処分であるから、建築申請の土地が現実に存在し、且その敷地への建築が関係行政法規に牴触しなければ当該敷地に関する私法上の権利関係について実質的な審査をする迄もなく、建築許可はそれだけで有効に成立するのであつて、この場合当該敷地に関する私法上の権利関係は建築許可の効力に直接の関係が無いものと解する。然るに、原告は当該敷地について何等の私法上の使用權を有しないものに對してその使用權の有無を實質的に審査せずに爲された建築許可が原告の同敷地に対する所有権を侵害することを理由として、該許可の無効なことを主張するのであるから、その主張はその他の点についての判断を俟つ迄もなくそれ自体失当であり、もとより憲法違反の主張も亦理由がない。依て、原告の本訴請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

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